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高性能・低電力・高信頼性マイクロプロセッサの研究
マイクロプロセッサというと,今の学生さんは何を想像するのでしょうか?パソコンでしょうか,それともゲームコンソールでしょうか?現在では,マイクロプロセッサは身の周りのありとあらゆる電子機器に入っています.身近なところでは携帯電話やディジタルテレビです.エアコンや炊飯器にも入っています.自動車になると,高級車では100台を越えるコンピュータが搭載されており,コンピュータネットワークが形成されています.マイクロプロセッサは,私たちの目には見えない所に多数存在し,私たちの生活を支える社会インフラとなっています.
システムアーキテクチャ研究室では,そのようなマイクロプロセッサを研究対象としています.
世の中に新しいマイクロプロセッサを提案するためには,これまでには無かった付加価値を提供しなければなりません.一番わかりやすいものは,従来以上の演算性能でしょう.数か月ごとに新しいパソコンが発売されますが,一番わかりやすいセールスポイントは性能です.システムアーキテクチャ研究室では,より高性能なマイクロプロセッサを研究しています.
「パソコンの性能はもう十分,高性能なマイクロプロセッサなんて要らないよ」と考える人もいるかも知れません.でも,上で紹介したように,マイクロプロセッサはありとあらゆるところで利用されています.スーパーコンピュータもマイクロプロセッサを利用しています.現在では,多くのマイクロプロセッサを使って並列処理を行うことでスーパーコンピュータを実現する,というのが主流です.
携帯電話には高性能マイクロプロセッサは必要ないでしょうか?いいえ,携帯電話は最も高性能マイクロプロセッサを必要としているアプリケーションの一つです.皆さんの持っている携帯電話はどんどん高機能化・多機能化しているでしょう.次々に新製品を出すためには,新機能をソフトウエアとして実現せざるを得ません.自然,マイクロプロセッサにより大きな性能が期待されるわけです.もちろん,後継機種となれば,その機能を専用ハードウエアで実現することもあるでしょう.
いかがでしょうか?マイクロプロセッサの性能をもっともっと向上させなければならないことに納得していただけたでしょうか?
マイクロプロセッサに要求されるものは高性能だけではありません.次は消費電力について考えてみましょう.
わたし達の身の周りには電池で動作する携帯デバイスが溢れています.一番身近なものは携帯電話ですね.そこでは驚愕する技術が使われていますが,気にされたことはありますか?例えばデジカメ.今は普通に搭載されてますよね.でも,次はデジカメを載せるらしい,という話を聞いた時は電池の持ちが心配でした.実際,試作機では数枚撮影すると電池が切れていたそうです.十数年前に深刻だと聞いていたのはミュージックプレーヤーでした.デジカメと違ってずぅっと使いっぱなしなので,電池の持ちが問題になるのだそうです.これらの応用では消費電力を下げることが重要な課題であることは容易に想像できると思います.
でも,電力を下げなければならないのは,携帯デバイスだけではありません.今ホットな研究がされているのは,サーバ機やスパコンです.GoogleやAmazonなどのweb上で提供されているサービスは,現在の生活では不可欠なものになっています.これらのサービスを提供するために,信じられないほど沢山のサーバ機が四六時中働いてます.その為の電力も信じられないほどです.
グリーンITを実現するためには,まだまだ研究しなければならないことがたっぷりあるのです.
高性能と低電力の次は,高信頼性の問題です.
半導体技術の進展により集積度が年々向上し,今ではLSIの一チップ上に億を超える数のトランジスタが搭載されています.インテルの2005年4月20日付プレスリリースには,「米国半導体産業協会によると、2004 年に半導体産業で製造されたトランジスタの数は、世界中で生産された米粒の数よりも多」いと書かれています.ムーアの法則として知られるこの集積度向上はマイクロプロセッサの高性能化・高機能化に大きく貢献してきました.しかし,トランジスタが極限近くまで小さくなり,大きな問題が顕在化してきました.それが信頼性の問題です.ここではソフトエラーの問題を紹介します.
ソフトエラーって何でしょう.ソフトウエアのバグではないですよ.恒常的な故障をハードエラーと呼び,一過性の故障のことをソフトエラーと呼びます.ソフトとついてますが,ハードウエアの異常です.例えば,メモリの内容が壊れたのだけど上書きしてやれば問題は解決した,というのはソフトエラーです.メモリそのものが恒久的に壊れているわけではありませんよね.ソフトエラーは一過性の故障全般を指す用語ですが,現在大きな問題と考えられている中性子起因のソフトエラーを,ここでは狭い意味でソフトエラーと呼ぶことにします.ここからの話はすぐには信じられないかも知れませんが,トンデモ科学ではないですよ.
宇宙線が地球の大気中にある原子と反応すると中性子を生じ,地表に中性子のシャワーが降り注ぎます.ご存じのように中性子は透過性が高いので,ほとんどは通り過ぎるだけですが,中にはLSIのシリコン原子と衝突するものがいます.このときの核反応で電子が生成されます.この電子による電荷が一定量を越えると,メモリの0/1が反転するなどの異常を起こすのです.トランジスタが小さくなると,この閾値となる電荷量も小さくなるのです.
内容の壊れてしまったメモリが読み出されてしまうと,マイクロプロセッサの動作に異常が生じ,コンピュータシステムがダウンしてしまう場合もあります.車載システムの様な人命に関わるような応用や,銀行のオンラインシステムの様な経済活動に関わるような応用で異常動作を生じると,社会に甚大な影響を及ぼすということは容易に想像できるでしょう.現代社会がインフラとしてのマイクロプロセッサに頼っている以上,その信頼性を保証することが求められるわけです.
いかがですか?信頼性の重要性も理解していただけたでしょうか?
困ったことに,性能・電力・信頼性は互いに関連しあい,解決しなければならない問題を複雑にしています.性能を向上しようとすると,消費電力は増加します.消費電力を下げようとして電源電圧を下げると,信頼性が低下します.信頼性を向上させるために冗長な処理を行うと,性能が低下します.全てを改善することはもちろん究極の目標でしょうが,最適なトレードオフポイントを見つけることが第一歩です.システムアーキテクチャ研究室は,すでにこの第一歩での成果を上げています.
あなたも,高性能・低電力・高信頼性マイクロプロセッサの研究に加わりませんか?お待ちしてます.